研究内容

 

細胞の中の小さな器官(オルガネラ)は、直接融合せずに“至近距離のコミュニケーション”をします。私はこのやり取りの場=「膜接触部位(Membrane Contact Site; MCS)」に注目し、脂質の受け渡しやカルシウムの調節、オルガネラのダイナミクスがどう生まれるのかを調べています。私の所属する白根研では、小胞体とエンドソームをつなぐ新しいタンパク質複合体を発見しており、その機能を解明することで、神経変性疾患などの病態機構の理解につなげることが目標です。

  • PDZD8によるオルガネラ間脂質輸送機構

 PDZD8はER膜貫通タンパク質であり、私の所属する研究室が小胞体とエンドソームとの間で膜接触部位を形成し、エンドソーム成熟に働くことと、神経健常性の維持に働くことを見出しました(Shirane, Nature Communication, 2020)。PDZD8は脂質輸送ドメインであるSMPドメインを持ち、その論文ではin vitroのリコンビナントタンパク質を用いたアッセイでPDZD8が脂質輸送活性を持つことを証明しましたが、実際に細胞内で脂質を輸送するかどうかは不明でした。

 そこで私は、細胞内オルガネラ間でPDZD8がどのような脂質を輸送するか、またどのオルガネラからどのオルガネラへ脂質を輸送するかどうかを調べました。主な手法はイメージングです。標的とした脂質に特異的に結合する脂質マーカーと各オルガネラ特異的に標識するオルガネラマーカーを細胞内に導入し、共焦点顕微鏡で観察しました。

 その結果、PDZD8が小胞体からエンドソームへ、コレステロールを輸送することを見出しました。さらに、この脂質輸送機能が損なわれることにより、脂肪滴の分解(リポファジー)に不全を来すことが明らかになりました。研究成果は以下の論文に掲載されました。

PDZD8-deficient mice accumulate cholesteryl esters in the brain as a result of impaired lipophagy.
Morita K, Wada M, , Nakatani K, Matsumoto Y, Hayashi N, Yamahata I, Mitsunari K, Mukae N, Takahashi M, Izumi Y, Bamba T, and *Shirane M.
iScience, 2022, 16: 105612

PDZD8-deficient mice manifest behavioral abnormalities related to emotion, cognition, and adaptation due to dyslipidemia in the brain.
Kurihara Y, Mitsunari K, Mukae N, Shoji H, Miyakawa T, and *Shirane M.
Mol. Brain, 2023, 16: 11

  • TMEM55Bによるオルガネラ間Ca2+調節機構

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